第18回 オーガニック・フードにM&Aはあるのか
当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。
ビジネスの拡大において一番堅実で確実な方法は、「Organic Growth」(オーガニック・グロース)。オーガニック・グロースとは自社の本業で事業が拡大、成長する事。それは当たり前の事では? と思われる方々も多いかと思うが、企業成長にはもう一方、外部から資金を調達する等して企業を買収、提携等で成長する方法がある。M&A等がそれにあたるが、数字や帳簿上では一気に成長する事になり、これをノン・オーガニック・グロースとも言う。市場が広がっていると言われるオーガニック食材の実態に迫ってみよう。
肌感覚ではあるが、ここ数年スーパーマーケットでオーガニック・フードを随分と目にするようになった。牛乳、野菜、チキン、卵等これらの食材の棚にはオーガニックとコンベンショナル(一般製法の食材)食材両方が陳列されている。一方で、日本に戻るとオーガニック・フードは一部で見るが存在感はアメリカ程ではないと感じる。日本語では「有機」になるが製法が難しかったり、規制が厳しい等のイメージがあるとも言える。実はアメリカは全世界のオーガニック市場の約46%を占めると言われている、圧倒的な「オーガニック大国」なのである。それであれば日米の違いも少し理解出来る。
米国オーガニック・フードの定義
「Organic Food(オーガニック・フード)」とは「化学合成農薬、化学合成肥料、あるいは遺伝子組み換え生物を使用せずに育てられた農産物」と定義される。化学の発展と共に開発された工業的に効率を重視した農薬や肥料を使った農業でなく、天然の有機資材を用いて行う農業から生産された食材である。
食材市場から見るオーガニック・フードの成長
アメリカにおけるオーガニック・フード市場は年々成長しており、現在食品全体におけるオーガニック・フードの市場シェアは約5・5%と推測されている。2021年の市場規模は約520億ドル(約6・7兆円)で(USDA Economic Research Serviceより)、2010年時点の約230億ドル(約3兆円)より11年間で、二倍以上に市場が伸びた。米国農務省(USDA)はオーガニック・フードを八つの商品群に分類しているが、その中でも生鮮野菜&フルーツは最大のシェアを占め、全体の約15%をオーガニック・フードが占めるようになった。
成長はしているオーガニック・フード市場だが、市場シェアはまだまだ少ないのではないか、と感じる方も居られるかもしれない。しかし、ここでは逆の点にフォーカスを充ててみたい。
化学的な農薬や肥料を使わない農業で、たった十年でここまで市場を大きく出来た事、これは驚異的なアチーブメントとも言える。1984年頃から始まった全米単位でのオーガニックの基準設定、それに呼応し、州や自治体レベルでの認証団体の活動が40年近くかけて充実し、オーガニック農家の生産拡大を後押しした。全米の農産物の約60%を生産すると言われるカリフォルニア州では、CCOF(California Certified Organic Farmers)という認証団体が認証、技術指導を行っているが、コンベンショナル生鮮野菜の畑をオーガニックに切り替えるには、最低三年間は土壌変更に費やす必要がある。今まで使っていた土地にオーガニックの肥料を撒いたのですぐにオーガニック・フード、とはならないのである。
生産者と消費者の関係
現在オーガニック・フードの88%がスーパーやグロサリー店で販売されているが、ここ近年勢いを増しているのがCommunity Supported Agriculture(CSA)という取り組み。消費者と農家が直接繋がるサブスクリプション・モデルで、農家の考えや哲学に共感して買う、「ストーリー」が備わってくる。
このようにオーガニック・フードは、関係者全員の取組みが呼応、連携するからこそ成り立つのである。よって、オーガニック食材生産には、M&Aのような数字の魔法はないのである。オーガニック食材の成長はどこまでいってもオーガニック・グロース。我々はそれぞれの食材の裏にあるストーリーを一つ一つを探ってみてはどうだろうか。自分の人生のオーガニック・グロースを実感出来るかもしれない。
ソース/NYジャピオン
文/NYジャピオン